成秋文学大観


濱野成秋(はまのせいしゅう)は本名濱野成生。


  大阪堺市丈六に誕生。ポストモダン作家。心理小説。戦争文学。サルトル、カミュの実存主義からフーコー、ドゥルーズへと進む。審美的心理小説で同郷の与謝野晶子の影響を受ける。リアリズム文学だが文体は浪漫調で描きつつ現代社会のパラダイムを実存と不条理で構築。話題作は『日朝、もし戦えば』(中央公論新社)と『日本の、次の戦争』(ゴマブックス)。戦争文学だが大岡昇平、田宮虎彦の影響を受けて繊細だが戦争哲学を根本から異にする。心理描写を特色とする。批判精神は高木俊郎の『イムパール』、野間宏の『真空地帯』に通じるが、内容は過去戦ではなく近未来戦で、アメリカ作家カート・ボネガットと比較され時空超克の警鐘作家だが不条理は多極的。


 文学思潮は慶應義塾の三田文学に属する。処女作は『慶應文藝』に発表の「釈喝」。初期は堀辰雄、立原正秋を思わせる情緒的作品が多く、文壇登場は生誕地堺市丈六の田園を舞台に男女の繊細な愛の姿を描いた短編「点睛の壺」を『文學界』に発表して以来。美を追究する陶芸家や茶人、刀工たちの苦悩や迷いを描く。文体は谷崎潤一郎、堀辰雄、三島由紀夫の耽美派。野口雨情、北原白秋、西条八十に通じリリカルな絵画調。


 戦争心理描写に近未来戦を描くことで、独自の境地を拓く。田宮虎彦と比較可能。成秋はニューヨーク州立大在職中ボネガット、フェダーマン、フィードラー、バーセルミ、マラマッド、エングルらと交流、過去の戦争よりも、未来に起こる可能性のある戦争を描写して戦争文学に新境地を拓く。中央公論文芸誌『海』に対談シリーズ多し。


 文学以外の影響は、濱野成秋の場合、戦中戦後の混乱期の体験。長じて東大駒場研究員時代にアメリカ研究所の影響を受けるか。他方、生い立ちの河内情緒、戦争、進駐軍という特異環境と綯い交ぜがある。